本大会のワークショップでは、豊富な臨床経験をもつ先生方から、遊戯療法の実際について学ぶことができます。内容は、遊戯療法およびその親面接についての事例検討をはじめ、本大会のテーマである「マンガとあそび」に関連して、ファンタジーの世界について多様に学べる講義もご用意いたしました。
本大会ではワークショップの開催形態を2つに分けました。AコースからFコースは、大会会場(大阪公立大学中百舌鳥キャンパス)での開催です。GコースとHコースは、オンライン(Zoom)での開催とします。
ワークショップについては、会員はもちろん、非会員、臨床心理学を専攻する大学院生の方にも受講いただけます。遊び心に満ちたワークショップから、皆さんの臨床に活かせる知が得られることを祈念しております。
日本遊戯療法学会第28回大会 大会長 川部 哲也
Ⅰ. 日時 : 2023年10月21日 (土) 9:30~12:00
(現地受付 9:00〜, オンライン(Zoom)受付 9:00〜9:15)
Ⅱ. 会場 : 大阪公立大学 中百舌鳥キャンパス (大阪府堺市中区学園町1-1)
対面形式のワークショップ(AからF)と、Zoomを用いたオンライン形式のワークショップ(G・H)がありますので、ご注意ください。ワークショップA・D・Eでは事例発表の募集があります。
Ⅲ. 講師ならびに内容紹介 (敬称略・五十音順)
ワークショップA 遊戯療法の基礎;講義と事例検討
講師:安島 智子 (このはな児童学研究所)
子どもの心理療法は「遊ぶこと」を通してなされますが、多くの遊戯療法家はビギナーズラックの段階を過ぎると遊戯療法の難しさに直面する経験をされていることでしょう。神経症水準の子どもとの遊戯療法と発達障害を抱える子どもとの遊戯療法では、自我への関わり方も幻想やアグレッションの扱い方も技術が全くと言ってよいほど異なります。
私たち遊戯療法家は、どのような子どもとも治療的にかかわることができる専門性が求められます。ワークショップでは、その専門性について基礎となることを論じ、事例について考察を深めたいと思います。
事例発表を募集いたします。
※事例発表をご希望の方は大会参加申込フォームにてお知らせください。後日、事務局より連絡いたします。
ワークショップB 東日本大震災の被災児に対する遊戯療法過程
講師:伊藤 良子 (京都大学名誉教授)
東日本大震災後11年が過ぎました。本学会は震災直後から、被災した子ども達に対する遊戯療法と保護者の方々への面接を行って参りましたが、こうした大災害においては、緊急支援のみならず、長期にわたる援助も必要になります。
本ワークショップでは、父親が震災後の厳しい公務によって自死された子どもに対する6年間の遊戯療法過程をご報告いただきます。この重要な事例について、会員の皆様と共に考えたいと思います。
事例提供者:佐藤葉子氏 (仙台テラピ・ド・ジュ研究会)
ワークショップC 親子相互交流療法(PCIT)の展開と最新動向-1歳児や場面緘黙児への適用の広がりー
講師:國吉 知子 (神戸女学院大学)
親子相互交流療法(PCIT)とは、Eybergにより1974年に開発された親子遊び中の親に別室から養育者スキルをコーチングし、親子関係改善ならびに子どもの問題行動の改善を図る、“遊戯療法と行動療法を融合したセラピー”です。
日本には2008年に導入され、全国で普及し、発達障害児を含めた高い改善効果が確認されています。コロナ禍においてもインターネットでのPCITが導入されるなど、PCITは応用版も開発されています。PCITの適用年齢は2歳~7歳ですが、近年では「赤ちゃん版」や「場面緘黙児版」も開発され、PCITの適用範囲も拡大しています。
本ワークショップではPCITの基本的スキルや構造を解説するとともに、赤ちゃん版や場面緘黙児版の特徴についても触れ、PCITの最新動向や治療ツールとしての可能性についてご紹介します。皆さまのご参加をお待ちしています。(参加にあたっては、各自、色鉛筆やカラーペンなどをご持参ください。)
ワークショップD 遊戯療法における情動調律
講師:黒川 嘉子 (奈良女子大学)
クライエントの気持ちや心のテーマを理解するために、その遊びは何を意味しているのだろうとセラピストは考えます。ただ、クライエントとかかわっているとき、遊びの意味を思いめぐらしながらも、クライエントの身体の動きや声の調子、遊びのリズムなどから、盛り上がりや、波打っている、急降下などを感じ取り、その情動の動きにセラピストも合わしていくような情動調律(D.Stern)がおこなわれています。
本ワークショップでは、共感覚や相貌的知覚、オノマトペなど意味の共有とは異なる前言語的な関わり合いの次元に注目し、クライエントと体験を共有する、共にあるという関わり方について考えてみたいと思います。
療育や親子教室など、遊戯療法の枠組みではない事例でも構いませんので、検討したい事例があれば申し出てください。
※事例発表をご希望の方は大会参加申込フォームにてお知らせください。後日、事務局より連絡いたします。
ワークショップE 子ども支援における困難な親面接について
講師:永井 撤 (東京都立大学)
親子並行面接における親面接は、基本的には子ども支援のための親面接であり、親自身の問題や病理は扱わないという一般的な原則があるかと思います。ところが現実には、子どもの問題以上に親の問題が顕在化し、子どもの支援に支障をきたすような親との関係が難しく、その対応に苦慮している場合も多くあるかと思います。ここでは、そのような親面接で困っている支援者に対して、どのような姿勢で対応すれば良いのか、勿論魔法の方法や技法があるわけではありませんが、参加者の皆さんと考えていければと思います。私自身の事例の話(「心理臨床における親面接」2021、北大路書房)から取り上げますが、事例提出の希望があれば歓迎します。
※事例発表をご希望の方は大会参加申込フォームにてお知らせください。後日、事務局より連絡いたします。
ワークショップF マンガとあそび-ファンタジーを生きる-
講師:山中 康裕 (京都ヘルメス研究所/京都大学名誉教授)
大会長の川部君によれば、上記のテーマでワークショップを開きたい、とのことであった。予め、登壇を引き受けてくれるかとの問いに、私は喜んで快諾した。なぜなら私は、小学1年の時からの漫画・アニメ大ファンだったからである。
それまでは、厳しい母の教育方針で、四角四面誌しか読めなかった私が、新関健之助の「カバだいおうさま」(幼年ブック)や、手塚治虫の「リボンの騎士」(少女クラブ)福井栄一の「いがぐりくん」(冒険王)などと言った洒落た漫画を読むようになったのは、初めてできた同級の友人(河合勇君)のお姉さんの影響なのであった。
以来、手塚治虫の「鉄腕アトム」〈これは、日本最初のアニメともなる〉「ブラック・ジャック」「火の鳥」「ブッダ」などを中心に、白土三平「カムイ伝」、つげ義春「ネジ式」、大島弓子「綿の国星」等、途切れることなく私を魅了して、藤子不二雄「ドラえもん」、赤塚不二夫「天才バカボン」から臼井儀人「クレヨンしんちゃん」を経て、諌山創「進撃の巨人」や尾田栄一郎「ONE
PIECE」吾峠呼世晴「鬼滅の刃」に到る、おそらく10,000冊を超す漫画を読んできたことになるだろうから。無論、モンキー・パンチの「ルパン三世」アニメの鬼才の宮崎駿の「となりのトトロ」「ナウシカ」「紅の豚」を外すわけにはいかない。
中でも、出色は、手塚治虫特集を組んだ「朝日グラフ」に起稿した原稿のことが思い出される。1997年7月18日号で、「ルパン三世」から「もののけ姫」迄の副題を持った『宮崎駿の世界』という特集号で、私は「ネコ派の感受性がつくった神話世界」というエッセイを寄せた。「紅の豚」では、とっておきの笑い話がある。フランスの飛行機の中でのことだった。仏国表現療法学会長のギー・ルー氏が隣の席だった。ParisからPauというバスク地方の都へ向かう処、ちょうど映画がかかり「Porco
Rosso」というイタリア語版が映写された。無論、我がハヤオさんの名作中の名作(駿さんは心底飛行機整備士になりたかった人である!)。ところが、ルー氏は、題名からイタリア作品と勘違いしたのか、私に「おい、ヤマナカさんよ、日本じゃあ、こんな洒落た作品なんざぁ、決して作れめぇ」とほざいたので、言ってやった。「ナニ、もうすぐ、カトウトキコが歌い始めるが、彼女ぁ東大出の歌手でね、ソルボンヌやボローニャ出でも、彼女ほど唄える歌手なんざぁ、そんじょそこらにゃ居ねえだろう」最後に流れたクレジットに、Hayao Miyazaki,
JAPONとあるのを見て、彼は呻った「へえ、今じゃあ、ヤポンの方がずっと上行ってるのかぁ」と。
*ワークショップGとワークショップHは、オンライン形式の開催になります。
講師はオンラインでの参加です。
ワークショップG 「遊ぶことと現実」─ ファンタジーの「終わり」と心理療法の「終結」─
講師:桑原 知子(放送大学教授・京都大学名誉教授)
「精神療法は2つの遊ぶことの領域、つまり、患者の領域と治療者の領域が重なり合うことで成立する。精神療法は一緒に遊んでいる2人に関係するものである」とウィニコットは述べている(D.W.ウィニコット 橋本雅雄訳1979 「遊ぶことと現実」岩崎学術出版社)。
この「遊ぶこと」が「終わる」とき、何がおこるのだろうか。あるいは、そもそも心理療法に「終わり」はあるのだろうか。
ファンタジーの「終わり」と、心理療法の「終結」とは何が違うのだろうか。また、ファンタジーにおける「遊ぶこと」と、心理療法における「遊ぶこと」の間には違いがあるのだろうか。
遊びやファンタジーにおける、「虚と実」、あるいは、「終わりとその後」というテーマをめぐるこうした疑問について、実習を交えながら考えてみたい。
ワークショップH 心理療法(遊戯療法や箱庭療法)の治療関係について
講師:齋藤 眞 (愛知学院大学・ユング派分析家(AJAJ、IAAP))
漫画表現ならではの力として、「弱虫ペダル」の漫画家(渡辺航)は、上り坂で一気にペダルに力を込めて速度を上げる表現に言及しています(「浦沢直樹の漫勉」)。その表現を観る読者は、全身に力を込めペダルから地面にその力を叩きつける「想像」を通じて、過酷な自転車競走での「必死」の体験を共有するように思います。
遊戯療法場面で「そんなの関係ねぇ!」と小島よしおのお笑い芸の真似をするとき、子どもと二人して、足と拳を床に叩きつける局面を想い浮かべてみて下さい。その子どもが様々に背負っているものを「想像」しながら身体と心を動かすとき、「あそび」のアクチュアリティ(山中康裕先生や黒川嘉子先生の論文参照)の濃度が増して体験の共有が進みます。このとき遊戯療法家が「さらに何を感じどこを見ているか」というところで、「治癒や鎮魂をどのように招く治療関係が開かれてくるか」ということ(布置)を考えたいと思っています。
アニメーション表現や実写映画表現では、「動き切り替わる画面をどのように繋ぐか」というところで映像表現の専門性や職人性が問われるところがあると思います。そこに音楽や音響効果が使われるところがあります。アニメ映画「秒速5センチメートル」(新海誠監督)のエンディングで音楽を消して観るとき、そこでの「感情移入」の濃度が変化しそうな気がします。あるいは、アニメ映画「イノセンス」(押井守監督)のラストで静かに鈴の音が鳴り響くとき、心に深く響いてくる体験(その正体は各自がさらに問い続けるしかない)が招かれると思います。そしてこれは場面の「向こう側」に響いてゆくと考えています。
著作権があるので画像や映像は扱えませんが、実写映画「眠る男」(小栗康平監督)を紹介しながら、上記についてさらに共に考えてゆきたいと思っています。
(字数超過で引用紹介が雑になっています。ご寛恕下さい。)
Ⅳ.受講資格
・日本遊戯療法学会会員
・非会員(日本遊戯療法会学会員以外の守秘義務を有する専門職の方 または 臨床心理学を学ぶ大学院生)
Ⅴ.ワークショップ参加の申し込みと方法
・大会申し込みページより希望のコースを指定し、お申し込みください。申し込み締め切りは 2023年8月31日(木)となります。9月1日(金)以降にお申込みをされた方は当日受付扱いとなります。
・ワークショップ参加費は、お申し込みの際にご案内する振込先に大会参加費などと合わせてお振込みください。振り込み期限は、2023年9月7日(木)です。9月8日(金)以降については、参加費を大会当日総合受付にてお支払いただきます。
・対面開催のみ当日参加を受け付けます。オンライン参加は2023年8月31日(木)までにお申し込みをお願いします。
・ワークショップG・Hのオンライン配信にはZoomを使用します。オンライン参加をされる場合には事前にZoomによる受講方法のご確認をお願いします。また、当日は開講15分前(9:15)までに入室をお願いいたします。
Ⅵ. ワークショップ受講料(予約参加料金)
会員 | 4,000円(当日5,000円) |
非会員 | 5,000円(当日6,000円) |
臨床心理学分野専攻大学院生 | 4,000円(当日5,000円) |
Ⅶ. 受講通知
希望人数が会場定員を超過したコースは、抽選になることがございますので、ご了承ください。第一希望のコースとは異なるコースになった場合のみ、事務局から連絡をいたします。連絡がない場合は、お申し込みいただいた第一希望のコースを受講いただきます。受講通知は致しませんのでご承知おきください。
Ⅷ. 当日参加について
定員に余裕があるコースのみ、当日参加を受け付けます。
Ⅸ.その他
※ 日本臨床心理士資格認定協会の研修ポイントについては「臨床心理士教育・研修規定別項」第2条第3項「本協会が認める関連学会での諸活動への参加」に基づき、ワークショップの他に特別講演に参加された場合は、2ポイントが付与されます。参加証は研修証明書の代わりとなりますので大切に保管してください。
※ 新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況によっては開催方式を変更したり、中止したりする場合があります。あらかじめご了承ください。
日本遊戯療法学会 第28回大会
大阪公立大学
2023.10.21-22